制作者インタビュータイトル
トップランナー・インタビュー第五弾は、ミュージックビデオ=プロモーションビデオ(PV)を制作する業界で、制作からプロデューサーまで担当されることのある一法師(いっぽうし)さんに、今のPV業界についてお話をお伺いしました!
(聞き手/山中純子、安黒道晃)

トップランナー・インタビューもはや5回目を迎えました。PV業界のお話は初めてお伺いするのですが、一法師さんはどのようにしてこの業界に入られたのですか?

中学校の時から映画好きで、漠然と映画監督になりたいと思ってました。そこで一般大学を卒業後、映像制作系の専門学校に入学し直したのですが、自己満足に走ってしまうことが多く、ディレクターという役割が自分に合わないことに気が付きました(笑)
そんな時に、先輩に呼ばれて手伝った現場で初めて制作という仕事があることを知りました。一般的には制作というと監督とカメラマンしか思い浮かばない人がほとんどだと思います。そういった陽の当たるメジャーな仕事ではなく、カメラより後ろにいる制作の仕事って面白そうだなあと思ったんですね。制作とひと口に言っても、照明、カメラ、録音、もちろんロケ地探しもですが、いろいろと知らなくてはいけないので、飽きっぽい性格の自分に合っているなと(笑)
24歳の時はとにかくいろんな制作会社に出入りをして、朝から晩まで働いて、少し仮眠してまた次のスタジオに入ってというパターンを半年ぐらい続けました。そんな中ピクスという制作会社から誘っていただき即入社して、5年間 PV・映画・WEB動画・CMといろいろな経験させてもらい、20代最後だった昨年、新たな想いで(現在所属している)オニオンに入りました。


いろんな現場をはしごしていらっしゃったとは! すごいバイタリティーですね(驚)
今は主にPVの現場にいらっしゃるわけですが、簡単に制作の流れを教えてください。

基本的にはまずクライアントであるレコード会社から「新曲が出るのでPVの制作をお願いします。」と依頼があり、TVに流すため発売日の1ヶ月前くらいにPVを制作して編集・納品するという流れです。
依頼の経緯はレコード会社かもしくはアーティストの所属事務所が、このディレクターでお願いしたい、という話になることが多いです。プロダクションとして会社の方へ依頼が来る場合もあれば、(ディレクターを囲っている会社だと)所属のディレクターが直接指定されることもあり、そのままその所属会社が制作する流れになります。
ただ売れているアーティストさんのPVだと、アーティストさんが監督を直接指名するというケースもありますね。
依頼を受けたら曲をもらって、監督が曲からイメージを浮かべてコンテを起こします。最初にクライアントから「これは屋外で青空が入るイメージで撮りたい」と要望があった場合は、そういったロケーションありきで考えます。それから企画コンテを起こした後に演出コンテに落とし込んでいき、クライアントチェックでOKなら、いざ撮影となります。



ロケ地探しには、コンテに落としてクライアントOKが出てから乗り出すのですか?

本来そうしたいところですが、最近では時間がないため、依頼の段階で先方にイメージがあればその時点で動いてますね。企画コンテにイメージ写真をつけて、「具体的に演出はどうしよう」と考えるのと、ロケハンはほぼ同時に進行しています。演出コンテを書いている時間もない場合は、ロケハンに行ってしまって、そこでアングルを決めてしまいます。「歌っている人はこの位置で、またこの位置とあの位置から撮影します」と説明しなくても分かるような写真を撮っておき、「今回はこう撮ります」というイメージの説明をするわけです。
実は納品時期が早まり制作の時間がなくなってきている理由のひとつに、誰でも簡単に動画をUPできる「youtube」の影響があります。以前に比べると制作日数もタイトになっていて、発注から完パケまで最短だと1週間ということもありますが、平均すると大体2週間ですね。



PVの業界でも制作スケジュールがタイトになってきているのですね。
一法師さんは制作だけではなく、最近ではプロデューサーとして依頼されることが多くなっているとのことですが、
具体的にはどんなことをされるのですか?

予算管理と、その中でどこまでクオリティを高めるか、ということが基本的な役割です。やはりPVというのはアーティストのイメージを大切にしなくてはならないため、作品でもどんなイメージで打ち出していくか、という点をなるべく明確にします。
例えば「予算がこれだけしかないけれど、すごく綺麗な画のPVが作りたい」といった場合に、安いカメラを使うわけにはいかないですよね。その場合は美術費を削ってでもカメラや機材にこだわるといった予算配分が必要になります。
本来そういった金銭面の話は制作の仕事でもありますが、知識がないと難しいので弊社ではプロデューサーである僕が担っています。アーティスト、事務所が納得できて、ファンも受け入れてくれるような作品を作って実績を残さないと次の仕事は来ないですしね。



予算とのバランスをうまく取りながら、よりクオリティの高い作品作りを目指されているわけですね。
限られた予算のなかで特に工夫されていることは何ですか?

決まった予算内だとできることが限られてきますが、ディレクターが「こんな新しいことをやりたい!」と思っていることを、必ず何かひとつは実現させるようにすることです。ディレクター自身にもそういった実績があると、次回も「予算がないけどどうにかならない?」という相談が来るわけですから。お互いに快く仕事ができた!と感じられることが大事ですね。
ただ、PV作品はパターン化されてきて、やり尽くされている感じはありますよね。
やはりパターン化されたものをディレクターは嫌うので、ロケ地探しでも「このスタジオって某PVで撮ったよね?」「でも、あれはあの位置から撮ったので、今回はこちらから」とか、同じ場所でも時間帯を変えてみるなどの工夫もしますね。同じ場所を避けると言っても、一人の監督で年間何十本も撮るわけですから、実際は前回撮った場所と違う場所を組み合わせて撮ることもよくありますよ。



ロケに出るか、スタジオで撮るかの選択は、やはり予算によるものですか?

予算によるところもありますが、いつも悩むのは天候が一番大きいですね。
今年で言うと梅雨が長かったと思いますが、時間も予算もない場合、スタジオで緑を張って撮影する選択肢を考えますよね。
ロケでないと成立しない作品ももちろんあります。実は最近も某アーティストの撮影で、今までPVが撮られたことのない場所で撮影しました。「普段は許可してないですけど〇〇さんなら」と快くOKをいただけまして、撮影後も「施設内のモニターでPVを優先的に流したい」というご相談をいただきました。僕たちもぜひ!と協力させていただいています。
ロケ地としてお客さんが増えれば施設にとってもメリットになるわけですし、PVを流すという点も曲の宣伝にもなりますから、基本的に事務所からのOKがでれば問題ないんです。 ただ、ここ数年で都内ではロケ地が減ってきているように感じますね。
お借りしているという意識と感謝の気持ちを持つのが当然なのに、一部の心ない人たちのせいで使えなくなったロケ地が実はたくさんあると思います。



基本的には皆さんがそれぞれロケ地や周辺にまで細かい配慮をしながらロケされているのがほとんどなのに、残念な現実ですね。ところでロケ地へは一法師さんご自身も直接交渉されることがあるのでしょうか。

例えば、ロケの経験があるような場所だと誰が行ってもほぼ同じなので後輩にお願いします。初めての場所だったりすると、交渉に出たりしますね。
よく後輩にも言っているのですが、交渉で気を付けなければいけない点は、もちろん映像を作る側として熱意は大事ですが、お願いした時に相手がどう思うのかを考えながら話すということです。
相手がどう思うか自分が分かれば、どこまで踏み込んでも大丈夫か判断できますからね。段階をふんで仲良くなった時にできることもあるので、ロケ地との交渉においてコミュニケーション能力は非常に大事です。
第一に人に迷惑をかけないということですね。これが守れないと業界全体を圧迫させることになりますから。



他に後輩の方にはどんな風にアドバイスされていますか?

(後輩が)「先方がこういう風に言っていて、撮影を断られたのですが…」と持ち帰ってきた時は、「まずは一日置いてみようか」と教えてます(笑)
あんまりしつこいものダメですし、説得の言葉につまるのも説得力に欠けますし、段取りを考えて、常にダメだった時に2番手3番手の方法を持つように、と伝えています。
あとは僕の場合ですが、交渉と言っても人と人との関わり合いなので、電話だけで終わりにするようなことはしたくないと思っています。忙しくてお会いできない時も、自分からどんな時間でも車を回して直接ご挨拶に行きます。終わった後もそうですね。会いにいくのは礼儀として当然で、それで相手が嫌な思いをすることはないですし。それに電話の向こうの人の顔が見えないと気持ちが悪いんです(笑)
やはりロケ地って、そこにしかないものなので手間を惜しんではダメです。最近の若い子はあきらめが早すぎる!(笑)
会うことで相手のことをもっと考えられるようになれますし、できることも自然と出てくると思いますよ。



一法師さんが個人的に今後どうなっていきたい、などの展望があったらお聞かせください!

仕事にしても、ロケ地にしても、関わる人全員が気持ちよく撮影できる環境にしていきたいと思っています。
先のことはあまり考えていませんが、今は新しい手法とか機材、新しいロケ地など「どういうものがあるのか?」と探していくことを単純に楽しみたいです。
僕は仕事でストレスが全く溜まらない方で、こうしなきゃ、ああしなきゃという時間的プレッシャーや先方の希望に応えなければという気持ちはありますけど、「もう嫌だ!」と思う瞬間ってないんです。
飽きっぽい性格なので映画のように1年かかる仕事よりも、常に新しい仕事が目まぐるしく回っている方が合ってるんですね。それに睡眠不足も気にならないですし、趣味が仕事なんでしょうね(笑) 辛い苦労も後で笑って話ができれば良いと思ってますから。



では最後に、プロデューサーになるにはどうしたら良いのか教えてください!

簡単です!明日から自分でプロデューサーと名乗れば誰でもなれます!
はっきり言って名乗ったもの勝ちです。
免許とか検定なんてものはないわけですから(笑)
もちろん名乗ってもすぐに仕事は来ません。大事なのは名乗ったその後に、どうやったら仕事が来るかを考える。なりたい気持ちだけで漠然としてしまって、自分の中で具体的に何をしたら良いのか落とし込めてないから進まないんですよね。
「どうやったら」ということを突き詰めて考えていくと、おのずと先が見えてくると思います。



【インタビューを終えて…】
ひとつひとつの質問に優しい調子で応えてくださった温厚な一法師さん。その答えは実にシンプルで的確でした。ロケ地として提供する施設側では、PV作品の撮影ではクレジット表記のメリットがないわけですが、「あのPVはうちで撮影されました!」とブログなどでUPし、PV作品のyoutubeのリンクなど張るなどの方法(きちんと交渉し許可をとってから、情報解禁後に掲載する)だと、相互にメリットがあるのではないかと思いました。制作の流れや、プロデューサーとしての役割が非常に分かりやすく、終始お話をお伺いしながら、「こんな先輩いてくれたらいいな!」と思ってしまいました!

顔写真

株式会社オニオン / 一法師幹也さんプロフィール

1979年生まれ。近畿大学卒業後、株式会社ピクスを経て、現在は株式会社オニオンに所属。
現在はプロデューサー兼制作担当としてPV、TV-CMなどに携わる。代表作は、Dreams Come True『そのさきへ』MVや、小池徹平『きみだけ』MV、絢香×コブクロ『あなたと』MV、ORANGE RANGE『おしやれ番長』MVなど多数。 株式会社オニオンの情報はこちら


2009年9月 1日

聞き手/山中純子、安黒道晃

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