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トップランナー・インタビュー第14弾は、株式会社チャンスイン代表取締役の酒匂暢彦さん。
映画『少林サッカー』『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版』シリーズなどの配給を成功させながら、『アフタースクール』の製作にもエグゼクティブ・プロデューサーとして関わり、ヒットさせてきた酒匂さんに、コンテンツビジネスについてお話を伺いました。(聞き手/田淵智子)

―映像業界に入られて、チャンスインを設立されるまでの経緯を教えてください。

大学卒業後、日本ビクター(JVC)に入社しました。ソフト部門を希望していたのですが、ハード部門に配属され、製品の企画・宣伝・営業の仕事を経験しました。その後、転職をして、たまたまレンタルビデオ店向けの映像作品の開発や販売をしている部署に配属されました。この会社でコンテンツ業界、映画の世界の流れを学びました。
1997年、当時の仲間でクロックワークスを立ち上げました。前職で学んだことを活かし、海外コンテンツの劇場配給から、セルDVD、レンタル、テレビ放映権までを扱い、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『少林サッカー』などをヒットさせました。また、アニメの配給事業では『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版:破』で40億円の興行収入を記録し、2009年の邦画4位を獲得したり、『アフタースクール』の映画製作にも関わりました。会社自体も、それに伴い18人で、50億円以上の売上げをあげるようになったのですが、映画以外にもやってみたいと思うこともあって、昨年、共同経営者に経営権を引き継いでもらい、僕一人でチャンスインという会社を立ち上げました。
現在は映像の企画をやりつつ、この7月から新大久保でK-POPのアーティストをプロデュースしています。また10月からは、これまでの経験を活かして、製作、宣伝、クリエイティブ部門の人材育成の学校をスタートします。

―クロックワークスの成功の秘訣は?

たまたま市場の状況が良かったというのはありますね。でも、それに加えて、大手配給会社や他社がやらないようなことをやって、市場を開拓していったのも大きいと思います。「エッジの効いたことをやろう」というのは常にありましたね。
『CUBE』は、当時、単館系作品は女性が観るものと言われていて、Bunkamuraやシネスイッチ銀座などは女性向けの恋愛ものやドラマ作品を中心に上映している中で、単館系の映画館にも男性の需要があるんじゃないかと思い、劇場で上映したら観客の半数が男性となり、ヒットにつながりました。ありきたりなホラーとも違う少し変わった作品だったこともあり、劇場公開後のレンタル展開もうまくいきました。
他にも『スーパーサイズ・ミー』や『太陽』など、大手配給会社ではやれない、問題作と呼ばれるような作品を配給や提供したり。こういう作品は僕たちみたいなやんちゃな配給会社じゃないとできなかったと思います(笑)。
もちろん、劇場興行のファーストランに頼るだけでなく、DVD販売やレンタル、TV放映までの権利を買って、二次利用も狙うというビジネスモデルも良かったのだと思います。

―確かに、どの作品もエッジが効いてますね。

僕は、セックス・ピストルズが大好きで、その影響は大きいですね。「好きなことやれよ」というすごく強いメッセージを高校生の時に受けて、人生変わったと思っています。

―内田けんじ監督の『アフタースクール』の製作に関わられたそうですが。

コンテンツビジネスをやる上では、やっぱり映画を製作してライセンスホルダーになった方がいいんです。洋画の輸入の場合はコンテンツの配給元として、手塩にかけて育てて大ヒットさせても、作品自体は自分たちのものにはならないですから。それで、邦画の製作をしようと、良い企画がないか探していた時に、『運命じゃない人』を撮り終えた内田けんじくんに出会って、彼の次回作をクロックワークスで作ることを前提に、配給したんです。この作品の興行自体は苦戦したのですが、カンヌで賞をいただいたのと、業界内の評価が高かったので、次回作として『アフタースクール』の製作が実現しました。



―酒匂さんは、どのような立場で映画に関わられたんですか?

僕は、エグゼクティブ・プロデューサーとして、企画全体の責任をとるという立場ですね。スタッフが監督と話し合いながらキャスティングをしたり、脚本を読んで現場の声を聞きながら、作品の方向性を決めていく中で最終的な責任者という役割ですね。都内の廃校や歌舞伎町のボーリング場などで撮影をして、僕も何度かロケ現場に足を運んだりしました。

―酒匂さんにとって、ロケ地とは?

三池崇監督の『極道恐怖大劇場 牛頭(GOZU)』という、ちょっと変わったホラー映画があるんですが、その作品に登場する旅館がとてもよくできていて、三池監督に「細かく作りこんでますね」と言ったら、「あれはロケです」って。本当に驚きました。あの不思議な世界観は、制作スタッフがこだわってロケーションをしたおかげだと思います。
映画って作品の内容はもちろんですが、画にリアリティがないととたんにしらけてしまうんです。だから、美術の演出もとても重要なんです。僕は『2001年宇宙の旅』と『ブレードランナー』が好きなんですけど、何十年も前に撮られた映画なのに、今見てもまったく古さを感じさせない。それって、リアリティへの想像力や細部への気の使い方が、けた違いにすごいからだと思います。そういう作品は、長く愛される。そういう意味では、作品にリアリティを持たせられる納得のいくロケ場所を探すのって、大変だろうなと思います。

―ご当地映画が流行し、地方を舞台にした作品も増えてきていますがどう考えられますか?

地域色の強い作品が流行ったのは、その地にゆかりのある人や、そこに行ったことのある人への親近感もあると思います。そこには、ある種の希少価値があると思うので、その部分が作品のクオリティとうまくマッチすれば『佐賀のがばいばあちゃん』のように大ヒットさせることもできるんじゃないでしょうか。
だけど、安易にご当地映画を撮って成功するかというと、それは違うんじゃないかと。僕のところにはいろんな映画の出資者の方が、作品を配給してほしいと来られるんですが、その作品に市場性があるかどうかということはとても大事です。お金をかけて劇場で公開しても、観客が入らないとビジネスにはならないですから。その地域の有名な観光スポットは、認知度は高いかもしれませんが、きっと他の地域にも同じような場所があると思うので、その場所を撮ったからといってその映画がヒットするとは限らない。それよりは、その地で今残しておかないとなくなってしまう文化であったり、他では再現できないものであったりといった希少性の高いものを、映画制作サイドの要望とマッチングできると、おもしろいご当地映画が生まれるように思います。

―現在、コンテンツ市場はどのように変わってきていますか?

映画に限らず、若い人の間では新聞を読む人が減り、テレビをほとんど見なかったり、既存のメディアに関してはマーケット自体が縮小しているような感じがします。その一方でFacebookやTwitterなど、新しいメディアが若い人を中心に影響力を持ってきていて、それらのコンテンツをどのようにお金にしていくかというのが、なかなか見えてこないというのが現状です。
映像よりもデータが軽いために、インターネットの影響を先に受けた音楽業界では、CDが売れなくなりましたが、じゃあ音楽のコンテンツに価値がなくなったかというと、そういうことではなくて、サマーソニックのようなライブチケットは高額であっても完売しています。お客さんは、CDは買わないけれど、ライブにはお金を出すわけです。DVDで言うと、通常版は売れないけど限定盤は売れる。映画で言うと、昨年『アバター』など3D映画がブームになり、当時は劇場でしか3Dが体験できないとあって映画館は満席となり、劇場興行収入が過去最高を記録しました。つまりコンテンツに対するお金の使い方が変わってきているというのはありますね。今のコンテンツ市場では、“(ここでしか体験できない)ライブ感”とか“(今しか入手できない)希少性”が、消費者を納得させるキーワードだと思います。



【インタビューを終えて】

数々の映画をヒットさせてきた酒匂さんとあって、おもしろい事例をたくさんお話ししながらコンテンツビジネスについて熱く語ってくださいました。10月からは、現場ですぐに役立つ学びの場として「PRODUCER’S LABO」を開講され、これまでの経験を業界の人材育成にも活かしていかれるそうです。お忙しい中、インタビューにご協力いただきありがとうございました。

顔写真

株式会社チャンスイン/代表取締役 酒匂暢彦さんプロフィール

1961年鹿児島県生まれ。大学卒業後、日本ビクター(JVC)を経て、1997年、株式会社クロックワークスを設立し、代表取締役に就任。映画『CUBE』や『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』『少林サッカー』など多くの作品を配給し、ヒットさせる。その後、同社で配給を手掛けた『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版』シリーズでも大ヒットを記録。映画『アフタースクール』では、エグゼクティブ・プロデューサーとして製作にも関わる。2010年、株式会社チャンスインを設立し、引き続きコンテンツ・ビジネスを行いながら、この10月からは「PRODUCER'S LABO」を立ち上げ、業界の人材育成にも携わる。

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10月開講PRODUCER'S LABO
※10月9日(日)説明会開催。参加ご希望の方は、こちらから。


2011年9月 30日

聞き手/田淵智子

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